■トーク ロシアの旅あれこれ
第2回 狩猟採集民?
ときわ:たまたまロシアに行く前にテレビを見てて、ちょうど由紀さおりさんが世界的にヒットしてそれはなぜかっていう番組だったの。
・・・ はいはい。
ときわ:で、それに私の好きなアーサー・ビナードさんという詩人さんが出て解説してて。アメリカ人なんだけど日本語で詩を書いてる方で、由紀さおりさんが海外でも成功された理由について話してたの。
今までに何人も日本人が海外に出て行って歌っていたけど、ここまでヒットしなかったのはきっと、その歌手が自分の歌をどれだけ観客に聴かせるかというか、自分の歌の事がありきでやっていたから、と。
・・・ うんうん。
ときわ:観客は歌手の歌を聴くんだけど、「歌の向こう側にある風景」を見たいっていうのが、聞く方にはあって。由紀さおりさんの歌にはその「歌の向こう側にある風景」があったからここまで受け入れられたんではないかって言ってて。なるほどなと思ったの。
・・・ うんうん。
ときわ:ロシアに行ってどんな気持ちで歌ったら良いんだろう、って考えて悩んでた時だったから。
・・・ うん。
ときわ:そうか、私が歌うというよりも、曲の景色をちゃんと伝えれば良いんだ、それだけの事だ、って思ったの。どうやって歌うとかそういうんじゃなくてね。
・・・ ふ~ん。
ときわ:たまたまその番組を見れて、そう思ったんだよね。そういうのがあって、ちゃんとできたか解らないけど、少なくともそういう気持ちでやろうって歌ってから。
・・・ でも、良く解らない状況だと、その番組を見て、今までの自分とは違う、「これでいこう」って、勇気いりません?
ときわ:うんうん。でも、もともとあまり自分のやり方がこうだ、ってそんなに強いものはもってはいなかったし。
新美:ときわさんって良い意味でそういうの無いんだよ。
・・・ 柔軟なんだよね。
ときわ:これが私のやり方っていうのはあんまりないのよ。新美くんに何か言われたら「そうか」って思ったりするし(笑)。まだ自分のやり方や歌い方を模索中というか。
新美:ときわさんって何て言うか、いつもゼロから始めるというか、初心なんだよね。自分が積み上げたものの上に何か乗せて、って俺は思いがちなんだけど、そういう文明社会的な感覚じゃなくて。
ときわ:あんまり積み上げてる感覚もないね。
・・・ 多分それは、ときわさんの個性だと思うよ。ずっと歌をやってきた人って、だんだんとこう、何かちょっとトゥーマッチになっていくですよ。
ときわ:あ~。
・・・ 自分が培ってきたノウハウと経験にどんどん足し算をしてっちゃうから。
ときわ:確かに、確かに。
・・・ 経験値が高ければ高いほどなんかトゥーマッチな感じが、こう「こってり」というか、昔の方が食べやすいというか。
ときわさんの歌を前に聴いてるじゃないですか、で、何年かたって今度のエカテリンブルグの歌を聴いたでしょ?そしたら、それが無いんですよ。
ときわ:うんうん。
・・・ 何年かたっているのにその、トゥーマッチ感が無いの。無い上に何かが変質してるのがすごく解ったの。
ときわ:ほう・・・すごい・・・(笑)。
新美:うん。やっぱりそれは狩猟採集民なんだよ。今日米俵を1俵、蔵に入れました、何かを学んで積み上げました、みたいな感覚で音楽とか物事にあたるんじゃなくて、行った先で獲物を。
ときわ:うんうん。今日は牛かもしれないし、明日はマンモスかもしれないし、って。
・・・ そこでスッとニュートラルに戻っていくのが・・・
ときわ:そっか(笑)。初めてだぁ、そう言われるの。いや~、私、あまり溜めてきた感覚が無いし。
・・・ (笑)
ときわ:そうか、そういった意味で貯金とかしないのか。
・・・ (笑)
ときわ:(笑)江戸っ子的な。そう考えてみると、歌い始めてから20年くらいたつけど、あんまり積み上げてきた感覚も無いし。米をこれだけ溜めたというよりは、獲物を捕りやすくなったって事なのかな。
新美:うん。確かにときわさんはそういうところがあるよね。
ときわ:なるほどって感じ。
新美:ゼロスタートだもん、いつも。
ときわ:うん・・・。なんか、原始時代とか好きだし。
・・・ (笑)
新美:アマゾンとかね。
ときわ:憧れるもん、ホント。
・・・ へ~、そうなんだ。
ときわ:縄文時代とかね。すごい好きですよ。
・・・ だからそういう感覚だからこそ、違う言語圏の人達の中に先入観無く行けちゃうんでしょうな。
ときわ:うん、あるある。言葉じゃないからね、コミュニケーションが。
新美:オレもどっちかっていうと技術とかさ、文明のチカラって好きな方だからさ。そうじゃないやり方で素直さと不器用さがむしろ一番の武器っていうか。
・・・ うんうん。
新美:それをやってる人が目の前にいると、あ、そうなんだって気がつく事がいっぱいあるね。
・・・ ふ~ん。
(聞き手:永尾ともあき)