熊谷さんの時間

名古屋でライブ活動がうまく運ばず悶々としていた時期に、テレビ番組で「熊谷守一」という画家がいることを知りました。

テレビで目にしたのは山々を見渡す風景の絵で、ただただのどかな稜線のふちどりと、やわらかい緑色の山肌、それらになんともおおらかなものを感じて、もっと熊谷守一のことを知りたい、と惹きつけられずにはいられなかったのです。

熊谷さんの生い立ちを調べると岐阜の出身だということで勝手に近いものを感じ、エッセイ集「へたも絵のうち」にもわくわくして。それから程なくして岐阜県美術館での大熊谷さん展。虫や鳥や、花や猫…”その辺”にうごめいている名もなきいのちが、鮮やかな色彩で、ごくごく単純化されて、ぽん、と「あらそこにいたの」というようにちょっとドキリとするように置かれている。なんて不思議な絵なんだろう。高齢になってからは(熊谷さんは97歳まで生きました)日がな一日蟻の動きを眺めて、友人に「蟻というものは左の2番目の足から歩き出す」と語った、というエピソードに心底感動したものです。こんな時間のあり方があるんだなあ、と。そんなところから、私のアルバム「Tempo」へのひとつのヒントを得たように思うのです。

最近たまたま読んでいた、「日本野鳥の会」を創られた中西悟堂さんの本に、熊谷さんのくだりが出てきて心が躍りました。

熊谷さんに弟子入りした中西さんの知り合いのある人が、石膏像のデッサンを何百枚でもするように、と言われて自信あるものを持っていくと…
「像と、バックの壁との距離が出てはおらん。空間が描けておらんな」
「どうしたら距離なんか出るんだい」
「バカ!俺にきく奴があるかい。”空間”にきいて工夫しろ。一尺離れていたら一尺の、二尺離れていたら二尺の距離が出ぬうちは油絵などに手を出すな」

___う〜ん…道を極めた人の話というのは、何回聞いても痛快です。甘々な自分のことはさておいて。見えぬものを見ていた時代なのだろうと思います。

熊谷さん展は、東京国立近代美術館で、3月21日まで。私の熊谷さん好きを知ってくれていた友人が、展覧会のことを教えてくれたり、前売り券をくれたり。あり、蟻…ありがたい。。熊谷さんの絵に、期間中もう一度会いにいこうかな。

 


2018-02-16 | Posted in ... Blog ...Comments Closed